思わせぶりの態度ばかりで距離は縮まらず
飲み会帰りのあのキスは夢だったのか?と思うほど、次の日からもいつも通りのやりとりが続きました。
同期のみんなで遊ぶことはあったし、そのたびに彼はわたしの家まで送ってくれました。
わたしが会社とは関係ない飲み会で夜遅くに終電を逃してしまったときも、連絡をしたら車で迎えに来てくれました。
並んで歩く帰り道は、恋人にはなれない彼とわたしの関係を表すかのように、いつも腕一本分の距離が空けられていました。
その距離を縮めたくて手を伸ばすと、避けることも嫌がることもなく、平然と「なに?」と言ってくれる。
でも彼からわたしに触れることはありませんでした。
このときに「付き合って。」の一言がもし言えていたら、なにか変わっていたのかもしれません。
わたしもわたしで、彼に「好き」という言葉は伝えていても、”だからこうしたい”という希望は伝えたことがありませんでした。
それは自信の無さからなのか、言わなくてもわかってるだろうという甘えからなのか、ただ恥ずかしかっただけだったのか…、その全てだったのかもしれません。
ふたりきりのときは自分から近づいてくることはないのに、同期や会社の先輩といるときには常にわたしの隣をキープしてちょっかいを出してくる、そんな謎の行動に戸惑いながらも嬉しさを感じていました。
ついにカラダの関係に…でも彼女ではない?
付き合えないながらも絶妙な距離感を楽しんでいたわたしでしたが、また飲み会の帰りにふたりきりになり、その日は珍しく彼も酔っていたのか勢いでホテルへ行ってしまいました。
でもその日は最後まではせずに、途中で中断してしまい、ゆっくりすることもなくホテルを出ました(笑)
(この時間はなんだったんだろう…)という思いと、(少しでも一緒に入れて嬉しい)という気持ちが混同していました。
しかし一度服を脱ぎ、肌を重ねたことによって、今までは近づけなかったパーソナルスペースまで入り込めるようになっていきました。調子に乗っていたんだと思います。
ふたりきりになるとベタベタ甘えたり、悩み相談という口実で彼を呼び出したりして、このまま彼の一番近い存在でいられればいつか恋人になれるんじゃないかという淡い期待を抱きながら。
ふたりきりになるとカラダを触り合うことが増えました。彼もわたしのカラダを触ってきていたし、彼のカラダも反応していて、「触って」とお願いされることも増えました。そのうち、会えば必ずそういう雰囲気になるようになっていきました。夜中に彼から呼び出されることもありました。飲み会の帰りは絶対に送ってくれるようになったし、以前なら参加しないようなメンツの飲み会にもふたりで顔を出すようになりました。
はじめは抵抗があったホテルも、行くことに慣れていきました。時間差で部屋に入り、事を済ませてシャワーを浴びて、部屋で食事をとったりテレビを見たりしました。
一緒にいれるだけで満足で、この時間が続いてほしいと願うようになり、「付き合いたい」という気持ちは頭にも浮かんでいませんでした。というよりもはじめから明確に彼に対して「付き合いたい」「彼女になりたい」という気持ちは持っていませんでした。なんとなく彼には好きな人ができることはない、と思っていたのと、こんなに長い時間一緒にいるのは自分だけだという自信を持っていたからです。
彼女ができたっぽい、けど本人の口から聞けず
当時はインスタなどというものは存在せず、日記形式のSNSが流行っていました。
彼は滅多に更新はしていませんでしたがアカウントは持っていて、お互いのアカウントを知っていました。わたしは彼にアカウントを知られていたので、自分の気持ちを書くことはありませんでした。彼も友達と遊んだ写真をごくたまに載せる程度であまり活発ではなかったです。
ある日たまたま彼のアカウントを覗くと、明らかに男同士では行かないような施設へ行ったという投稿がされていました。風景の写真しか載せていませんでしたが、それを見て(女の子と行ったのかな)という予感がしました。
でも日付を見てみると、その前日も、その次の日もわたしと会っていたので、(デートしたとしても、付き合ってはないだろう)という予想をしていました。
その後も何度か会うことはありましたが、彼の口から「彼女ができたからもう会えない」という言葉を聞くことはありませんでした。でもネット上の日記の投稿と友達からのコメントから察するに、彼女ができて、デートに行ったり、彼女の家の近くによく会いに行っているみたいでした。
結局わたしとは付き合う気はなく、適当な扱いだったんだなあ。とガッカリする気持ちはありましたが、そこまでショックでもありませんでした。それが不思議で、彼に対する気持ちは一体なんだったんだろうと、ぼんやりする日が続きました。
一番近くにいる、一番仲の良い幼馴染だと思っていたのに、先にそれを壊したのはわたし。
でもそれからもその場所を譲りたくなくて中途半端な行動をとったのもわたしでした。
彼はもしかすると、ただわたしに流されていただけなのかもしれない。そんな答えが浮かんできました。
彼女ができたんだな、と確信してからはなんとなくわたしから連絡することも、飲み会に行くことも控えていました。けれどそんなあからさまなわたしの態度に彼が怒りを向けてきたのです。
今までこっちに見向きもしなかったのに、なぜか怒っている彼
「最近なんでシカトすんの?」
たった1行で送られてきたメール。彼のメールはいつも1行でした。
「なんのこと?」
「俺のこと避けてるでしょ」
「避けてない」
「じゃあ明日の飲み会来いよ」
なんとも横暴なメールでしたが、彼を怒らせるとめんどくさいと思ったわたしは言われた通り飲み会に参加しました。会社の人たちも最近わたしたちが以前ほど絡まないことに、違和感を覚えていたようです。
飲み会中、お手洗いに立ったときに彼と廊下ですれ違いました。
「避けてんじゃねぇよ。先輩たちに『なにかあったの?』とか聞かれんの俺なんだからな」
なるほど、そういうこと。わたしのことを気にしていたんじゃなくて、周囲の反応や周りとの調和だけを考えての行動だったわけだ。
「はいはい。じゃあ今日も家まで送ってもらおうかな〜」
と冗談で返すと頭を軽く叩かれて、何も言わずに席に戻っていきました。
(さっきはああ言ったけど、やっぱりひとりで帰ろう)
そさくさと帰路に向かうわたしの腕をグイっと掴んできたのは彼でした。
「そっちじゃねぇだろ」
そう言って連れて行かれたのは彼の自宅でした。今まで頑なにホテルか車でしか会わなかったのに、その日はじめて家に入れてくれました。
彼女いるんじゃないの?と聞こうかとも思いましたが、「彼女がいるかも」と思ってから半年以上経っていたので、(もしかしたら別れてる?だとしたら聞かないほうがいいか…)と思い聞きませんでした。
結局流されるままカラダを重ねてしまいましたが、彼の部屋は慣れなくて居心地が悪く、すぐに出たいと言って車で話すことにしました。
「なんで今日、呼んだの?」
わたしがそう聞くと彼はまだイライラした声色で、
「いや、だからお前俺のこと避けてただろ」
と居酒屋で言われたことと同じことを言われました。
「彼女できたかもって思ってたからわたしもわたしでちゃんと恋愛したくて。連絡する気無くなってた。職場での配慮ができてなかったことはごめん。」
とはじめて彼女の存在を出して説明しました。すると彼は、
「あ、なんだ、知ってたの?そうそう、半年前くらいに彼女できたんだよね。」
とあっさり口にしました。わたしにはなんの報告もなかったこと、彼女と別れてないのに今日もわたしと関係を持ったこと、彼女がいるのにわたしが避けたことを怒っていること、いろいろわからない点がありましたが、全部聞くのも長くなりそうだったので、ひとつだけ聞きました。
「わたしのことはどう思ってたの?」
そりゃあ恋人にはなれないわ…
「お前のことは、都合の良い存在っていうか、自分のことを好いていて、なんだかんだでわがままを聞いてくれる存在だと思ってた」「だからそうじゃなくなりそうなのが嫌でムカついてた」
彼に言われたことは衝撃でした。
今までわたしが独りでモヤモヤ考えていたことの答えがそこに詰まっていました。
彼はわたしのことを文字通り、”都合の良い存在”としてしか見ていなかった。
当たり前に好意を寄せてくれる存在として、彼の承認欲求を満たしていたのかもしれません。
よく漫画やドラマで見る、「相手のことは好きじゃないけど、相手が自分のことを好きじゃなくなるのは気に入らない」の典型的なパターンだったんだ。そう思ったら急に虚しさが込み上げてきて、最初からこれっぽっちも可能性もなかったことを実感しました。
「わかった、教えてくれてありがとう」
それだけ言ってわたしは彼の車から降りました。
このままセフレとして会うこともできたのかな、と当時は少し後悔するほどには引きずっていました。
でもきっとそれは、愛情や恋愛感情ではなく、単なる依存だったのだと思います。
彼女にも、友達にも、セフレにもなれなかったハタチの恋
それから1年以内の間にわたしたちはそれぞれの事情で仕事を辞め、もう複数人で会うことも、連絡を取ることもありません。時々知人のSNSで彼の生存を確認し、当時のことを思い出すだけの存在となりました。
あの時の気持ちや行動を否定することはないし、今は若い頃の思い出として胸の中にしまうことができています。それはもしかすると、最後にハッキリと自分の考えを伝えてくれた彼のおかげもあるかもしれません。
勇気が出せずに「付き合いたい」「彼女になりたい」「特別になりたい」という自分の気持ちを伝えられなかった経験は、好きな人や大切な人たちには自分の思いを伝える重要さを教えてくれました。
伝えたところで必ずしも相手に届くとは限りませんが、声に出さない限りは一生届かない、誤解されてしまう、手遅れになる、後悔する…。わたしが相手に気持ちを伝えるときの、最後の一歩を踏み出す勇気を与えてくれるのは、このときの体験なのかもしれません。

